- 家族時代 - 何をあんなに嫌がっていたの 何をあんなに恥ずかしがっていたの  何をあんなに我慢していたの 何をあんなに怒っていたの  何をあんなに強がっていたの 何をあんなに怖がっていたの  何をあんなに 何があんなに 何であんなに 何もあんなに 何で 何で 何で  パパやママの気持ちはね パパやママにならないと分からない  爺ちゃんや婆ちゃんの気持ちはね 爺ちゃんや婆ちゃんにならないと分からない 兄ちゃんや姉ちゃんの気持ちはね 兄ちゃんや姉ちゃんにならないと分からない 弟妹の気持ちはね 弟妹にならないと分からない あたしの気持ちはね あたしにならないと分からない でも 本当は分かってた  気持ちの形はそれぞれ違っても それが家族の愛情なんだって  もう少し ほんのもう少し たったのもう少しだけ早く  ちゃんと伝えときたかった ごめんねとありがとう  一生後悔して過ごす いつもそうだった 無償の愛に素直になれず 背中を向けていた 平凡を失って初めて 平凡はとても眩しいものと知ったよ  帰る家も ご飯も お風呂も ベッドもあって 友達 先生 ご近所さん  当たり前な風景 習慣 通いなれた道 皆がこの町で暮らしてて  あったかい愛に囲まれてて 身近にあったんだね 幸福な時間だったんだね 「あの家族時代はもう二度とこない」事実が何度もあたしを真顔で責める  心ある人達の支援はギリギリのあたしを支えてくれてる  一生掛かっても返せない恩恵 感謝する一方 あの日以来  あたしは空っぽ 最低限の食事をとり 仮設で1日膝を抱え  あの家族時代を想い 悲壮と孤独に震え泣くだけ 震災への関心は被災地を離れれば離れるほど低いんだって  震災関連死は今も多くあるんだって  初めから廃炉の処分は考えてなかったんだって  復興第一と歌いながらも全く進んでないんだって 義援金や補助金で豪遊してる人達が沢山いるんだって  また泥棒だって また詐欺だって  高台に住宅を多く建てたけど入居者は全く決まってないんだって ある学生がね 自分探しの為に被災地にボランティアに来たんだって  「もっしー 何か以外と綺麗だし 想定外ってやつ   更地ばっかでマッジ退屈 てか来た場所まちがえてんじゃね   まぁそれでも善人な俺は 駄目なリーダーの指示に従い  ぶちゃいくで冴えない方々と数時間 無理矢理ゴミ見つけては片付けましたよ   頑張りましたよ あの俺が!凄くない!!神でしょ!!!   つうわけで善人な俺を祝い今夜ハプバーで乾杯でしょ!!!!   もうすぐこっち出っから あいつらも誘っていつもの場所に夜集合な はははははっ」 スマホ片手に大声で不謹慎 撒き散らし 仮設の横で自撮りして帰って行ったんだって 心ある人達の支援はギリギリのあたしを支えてくれてる  一生掛かっても返せない恩恵 感謝する一方 嘘か真か そんな話が幾つも何度も聞こえてきては空っぽのあたしを通り抜けてった あたしを埋めるものは あの家族時代だけ 彼女を埋めるものは何よりも重く 現実の中で叶う事はない 震災から5年が経った 今年も桜が咲いては散ってく 仮設に彼女の姿はもうない 僅かな 余韻も残さず…